題名からいつもの吸血鬼ものを想像していたら、いい意味で裏切られた。神を呪う男と神へ献身的な女との純愛を軸に、叙情的ムードの中で、人は人をどうすればゆるすことができるか、信じられるかを現代人に問う作品だ。作・演出は三十二歳の長塚圭史。シアターコクーンで最年少演出家のデビューである。
ホラー好きの長塚が歌舞伎の市川海老蔵と意気投合しドラキュラの話になった。モデルとなったのは十五世紀のフランス貴族で、ジャンヌ・ダルクに協力し国民的英雄になったが、性的趣味のため多数の子供を惨殺して死刑になったジル・ド・レ。それから三百年たった仏西部の森で一組の夫婦レイ(海老蔵)とリリス(宮沢りえ)が信心深くひっそりと暮らしていた。
血しぶき、内臓をえぐり出す長塚のホラー趣向は前半に見られるが、全体として抑制気味。海老蔵の人間離れした役は泉鏡花ものなどで魅力を実証済みだが、リリスヘの愛のため暴れることを禁じ手とされることで、人物像に深みが出た。聖女ジャンヌに模したリリスを演じる宮沢は清冽な透明感があっていい。
阿佐ヶ谷スパイダースを主宰する長塚は、若者向けの笑いを狙った芝居が多かった。しかし今回は歴史的に下調べし、物語性を重視した劇作となった。人物造形も巧妙で、リリスを民衆支配のために利用しようとする勢力も描くなど、社会性に目を向けたある種の成熟が見られる。
前半が象徴絵画のように幻想的で、一部回り舞台を使い、空間を埋めるような舞台であるのに対し、後半は、張り出し舞台にして空間を開放、アクセントの効いた動きを可能にした。弦楽四重奏の生演奏が荘重で神秘的な響きを出している。26日まで。
(編集委員 河野孝)
河野さん、日経新聞さん、いつも的確な劇評有難うございます。
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